【プロが認めた匠の技】テキスタイルデザイナー・コーディネーター・安東 陽子さん
テキスタイルの可能性を、空間・建築の世界に拡げ続けて
グラフィックデザインを学んだ後、布地のデザイン・販売・服飾や布製品の企画を行う会社で働き始めた安東さんは「テキスタイルの可能性はもっと拡げられるのではないか」という想いを抱き続けていました。
そんな折に、知人に紹介された建築家の依頼で公共施設内のインテリアテキスタイルを任されることになり、その仕事でテキスタイルの可能性を見出すことになります。
とはいえ、すぐに建築家からの依頼が集まるわけではありませんでした。それでも、徐々にインテリアテキスタイルに軸足を移すようになった安東さん。
創造性に富み、プロジェクトに関わる全ての人々への配慮を欠かさない丁寧な仕事ぶりが評判を呼び、いつしかこの分野で第一人者と呼ばれるまでになったのです。
「テキスタイルの可能性をもっと追い求めていきたい」と2011年に独立して以降は、著名建築家から若手まで多くの設計者とのコラボを中心に創造性に富んだ作品を国内外で次々と発表していきます。
台中国立歌劇院/伊東豊雄建築設計事務所 photo:伊東豊雄建築設計事務所
協働があってこそ
安東さん自身は、自らが手がけた仕事に対して「作品と言われることに違和感がある」と言います。
「建築家から依頼があって初めて仕事ができるのだし、完成までには機屋さんや現場に携わる数多くの方の助けがなくてはなりません。建築家との協働で縦糸と横糸を織るように皆で作り上げたものだという意識が強いのです」
安東さんは、関わってくれる人に「何のためにこれを創るのか」を丁寧に説明し、完成後には必ず写真を見せて感謝の気持ちを伝えます。
「大勢の人々の助けがあってこそ自分の仕事が成り立っていることを理解していれば、皆さんが自然に協力してくれます(安東さん)」
安東さんの作品(と言ってはいけないのかも知れませんが)から「優しさ」や「たおやかさ」が感じられるように思うのは、チーム安東に関わる人たちの互いを認め合う想いがつまっているからではないでしょうか。
小嶋一浩+赤松佳珠子/CAt photo: 長谷川健太
現場が創造の原点
安東さんが創造を育む場所は「現場」です。
「建築家によるコンセプトが明確に伝えられている現場に立つと、感覚を研ぎ澄ましているうちにアイデアが降りてくるのです」
建築のコンセプトをしっかりと把握した上で、現場の空気を感じて生まれる豊かな創造性こそが、安東作品の原点だと言えるでしょう。
代々木上原の家/フジワラテッペイアーキテクツラボ
伝統技術を現代に活かしていきたい
テキスタイルと建築というコラボで時代の先端を走る安東さんの次なる目標は、伝統技術と現代の融合です。
古代から使われてきた布は、さまざまな伝統技術によって文化の域にまで達しているものが少なくありません。
「今後は、伝統技術を現代に活かすような仕事もやっていきたい」と語る安東さんの次なるステージがどこになるのか、注目していきます。
安東陽子デザイン
http://www.yokoandodesign.com/
安東 陽子さん photo: Sadao Hotta
取材後記
取材が終わって雑談をさせて頂いている時に、「若い人たちは『自分探し』と言っては仕事を変えようとするけれど、今目の前の仕事を深く掘り下げつつ、視点を変え工夫して取り組むことが大事だと思います。」と静かに語られた安東さん。
文字通り目の前の仕事を一つずつ丁寧にこなしてきた方だけに、説得力がありました。 (取材:上野)
私が推薦します
建築家
赤松 佳珠子
やさしく、柔らかく、そして時には力強く、空間の魅力を増幅してくれるテキスタイルを生み出す安東さんとの
打ち合わせは、いつも少しドキドキして、とてもワクワクする。彼女の口からそのイメージが語られるとき、そ
して、現場で実際のテキスタイルが空間を彩るとき、豊かな時間が流れ出す。もしも、その空間にあるテキスタ
イルがなくなってしまったとしたら、ただ単に何もない元の空間に戻るだけではなくて、もっと大切な何かが一緒
に消え去ってしまうに違いない。それは、彼女自身の魅力と重なってくる。建築家と真摯に向き合い、空間に寄
り添い、素材を探求し、常に新しい事に挑戦していく。職人さんや工場が持つ技術力を知り尽くし、協働する人々
に最大の敬意を払い、彼女自身はとても静かに、そして凛として佇んでいる。
シーラカンスアンドアソシエイツ
http://c-and-a.co.jp/