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更新日 :2019年08月06日

【プロが認めた匠の技】京指物師・前田 邦衛さん

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数寄屋建築の名門にて

京都の名旅館・俵屋や伊勢神宮茶室・ジョンレノン邸など、世界中で数寄屋建築を手がけてきた中村外二工務店にはさまざまな伝説があります。

「一軒の家を建てるために、他の工務店なら三軒は建てられる木材の中から最高の部材だけを使う」というのもその一つ。

中村外二工務店は建築が決まってから木材を探すのではなく、使う予定のあるなしに関わらず良い木が見つかったら原木で仕入れておき、京都市内数か所にある倉庫で何年も保管してゆっくりと乾燥させた上で、必要に応じて最も適した木を使うのです。

茶人なら誰もが中村外二工務店に茶室を依頼したいと願う、とも言われています。

そんな中村工務店の数寄屋建築で使われる照明や茶道具・小物などの指物を作っているのが、この道38年という京指物師・前田邦彰さんです。


北大路魯山人デザインのペンダント風に製作


料亭のトイレのお手拭き入れ(右下)

材料と線を大切に

素晴らしい木材が身近にあって、いくらでも使えるのは最高の贅沢です。

徹底的に選び抜かれた木材を使った指物は、小さな照明部材一つ取っても、見事に揃った杉の柾目に精緻な細工が施されており、市販の和風照明とは質感が全く異なります。

「数寄屋建築に合うように、線の太さを細工することも大切なんですよ」と見せられた部材は繊細なまでに細く削られており、それでいて細部までしっかりと作りこまれています。

京指物の最高峰と言われるゆえんです。


精密な作りこみ


反らないように細かな細工を施します

良いものは良い

京指物という伝統技能の世界で活躍してきた前田さんですが、意外にも「伝統工芸だからといって、これは守らなきゃいけいない、というこだわりはありません」と言います。

「伝統技術の良いところはもちろん継承しますが、もっと良いものがあれば、当然それを採り入れます。早くからLED照明を使っていますし、新しい接着剤などもいろいろと試しています」

革新を怠らないからこそ、時を超えて伝統が継承されていくのでしょう。


料亭のカウンター照明


天井照明杉隅切りLEDシーリングがついている

取材後記

前田さんは会社からも顧客からも全幅の信頼を置かれて製作を任されています。

長年の経験に加えて常に革新を怠らない本物の職人気質は短い取材の間にもひしと伝わってきました。 (取材:上野)

私が推薦します

建築家
佐野 文彦

前田さんは私が中村外ニ工務店に入るより以前、関連会社である興石で北欧ビンテージの家具を扱っていた頃からのつながりである。

その後私が工務店の丁稚となり、隣でその仕事を見るようになってからも、指物師の数寄屋大工以上に精密な仕事や道具の扱いなどにいつも感心させられたものである。

1センチに満たない部材にほぞを作り、三方から成る角を全てトメで納める緻密な仕事は、私のようにデザインだけではなく製作に関わって来た人間から見てもにも眼を見張るものがあり、伊勢神宮の神宝を製作していることからもその技術の高さが裏付けされているといえるでしょう。(Photo by shu kojima)

FUMIHIKO SANO Studio
http://fumihikosano.jp/