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更新日 :2019年08月06日

【プロが認めた匠の技】特殊塗装職人・中村 修平さん

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壁画に魅せられて

絵画、中でも壁画は、アルタミラ洞窟に描かれた時代から人間が感動や歓喜・驚愕などさまざまな感情や想いを抱いた際に、周囲に一目で理解させ伝えることのできる表現手法として長い歴史を育んできました。

洞窟から始まった壁画は、建築技術の誕生と共に建物の壁面や天井・時には床にも描かれるようになりました。

壁画には、建築空間に新たな生命を吹き込み、見ている人々を包み込んで別の世界へと誘う効果があることから、世界中で数多くの作品が制作されてきました。

そんな世界に魅せられて壁画の世界を志した中村修平さんは、高校生の頃には壁画制作で報酬を得られるほどの腕前を持ち、美大卒業後にフレスコ画を中心に画家としての活動を本格的にスタートさせます。


壁全面を塗装中


ガラスを塗装

画家から特殊塗装の世界へ

フレスコ画は漆喰を壁に塗り、乾かないうちに水生絵具で絵を描く手法で、漆喰が濡れているうちに全てを描く必要があるために事前の構想力が要求される絵画でもあり、元々の芸術感覚に加えて、フレスコ画で培った「構想する力」は中村さんの現在の仕事にも大いに活かされています。

数多くのフレスコ画を描いているうちに壁全体の装飾なども依頼されるようになって、特殊塗装のおもしろさに気づいた中村さんは、3年間の修行をした後に特殊塗装職人として独立を果たします。

一般塗装と違って特殊塗装というのは、建築家やデザイナー・施主の「こんな雰囲気にしたい」という抽象的な要望を汲み取って、壁や天井など(塗る)対象をじっくりと観察して状況を把握した上で塗料の選定を行い、さらに温度や湿度なども計算して制作していくというもので、毎回毎回、まったく新しい絵画を創造するのと同じようなエネルギーが要求されます。

そんなシビアな世界で一流の仕事を残し続けてきた中村さんは、建築家やデザイナーから「塗る対象への観察力が鋭く、塗料の知識が圧倒的。ビジョンを共有する力にも優れているので、我々の抽象的な要望をきちんと捉えて具現化してくれる稀有な存在だ」と高い評価を受けています。


壁の微妙な色合いが美しい

もっと住宅を手がけたい

話題の商業施設や店舗などで数多くの作品を遺してきた中村さんですが、最近は「もっと住宅に関わってみたい」という希望を持っています。

「住まう人の人生に関われるのが住宅であり、施主とじっくり向き合って、その人や家族の人生を包み込むような仕事を遺してあげることができれば、本当に素晴らしいと思うのです」

中村さんの表現する壁や天井に包まれた空間で過ごすことができる、そんな施主さんがうらやましくなりますね。


住宅の壁・床を塗装

取材後記

中村さんの趣味はチェス。

ネットを通じて世界中のチェス愛好家と対戦しているそうです。

チェスもまた構想力が必要とされるゲームであり「仕事に役立っていますよ」と話されていました。 (取材:上野)

私が推薦します

建築家
長坂 常

20年ほど前、なかむらしゅうへいと会うまで、僕は日塗工で色を選んでそれを綺麗に塗るという建築界での常識がどうも慣れずに、その塗装方法に不自由さを感じていた。皮肉にも塗装屋さんは英語にするとPainterだ。でも、絵を描いていたことのあるpainterは少ない。ただ、なかむらしゅうへいは絵を描いていた。そこが大きな違いだ。絵描きというのは湧き上がる発想に与えられた材料だけでは満たせず、自分の表現のために素材、制作方法を開発するものだ。僕の発想も同じ時、与えられた素材だけでは僕の欲求は満たせず、それにふさわしい方法、材料を見つけていく必要があるが、僕にはなかむらしゅうへいがいる。彼は僕の表現において欠かせない存在である。

スキーマ建築計画
http://schemata.jp/about/