みなさんの家にも、1つくらいありませんか?
傷が入ったり、糸がほつれたりして傷んだカバン。
久しぶりに使おうと思って取り出してみたら、劣化してしまっていたカバン。このまま使うのもみっともないし、捨てちゃおうかな……。
そう迷ったものの踏ん切りがつかず、クローゼットに仕舞いこんだままにしてはいませんか?
そんな「タンスの肥やし」を持っているあなたに伝えたいこと。
それは、プロによるカバンの修理や補修。
仕舞いこんだカバンを、修理のプロの力を借りてよみがえらせてもらいましょう。今回、使いたくても使えなくなってしまったカバンを元の姿によみがえらせる、修理のプロの技を取材しました。
これから、プロによるカバン修理の魅力をくまなくお伝えします。
目次
カバンの修理と言われても、ピンとこない方は多いと思います。
そもそも「修理」と言われると、なにやら見慣れぬ工具を駆使して、エンジンのかからなくなった車や脚の折れた家具を直す、とても大がかりなことのように感じませんか?
実は、カバンの修理は、それとは少し異なります。まずは、革製品のお手入れのことから少し説明しますね。
人生の節目に奮発して買った靴。大切な人から譲り受けたカバン。記念日のお祝いにもらった財布。
歳を重ねていくと、かけがえのない思い出とともに大切なものも増えていきます。大切な靴やカバン、財布などの革製品を長く大切に使い続けていくには、定期的なお手入れが欠かせません。
革製品のお手入れには、大きく分けて「修理・クリーニング・色補修」の3つの方法があります。
革製品の破れや穴あき、縫い目のほつれ、パーツの不具合を直すこと。
革製品についてしまったシミや汚れ、カビを落とすこと。
色落ちや色褪せしてしまった革製品を元の色に戻すこと。表面についた擦り傷を直すのも、実は色補修。いくら大切に使っていても、傷をつけてしまったり汚してしまったりすることはあります。
そんなときに、正しいお手入れをすることで、また元の美しさを取り戻して、長く使い続けることができるのです。
そして、この革製品の3つの方法の中でも、今回は「カバンの修理」のお話です。
カバンの修理とひとくちに言ってもさまざまな修理があります。
それもそのはず。カバンは、形もブランドもさまざまで、そのどれもが複数のパーツを組み合わせてできています。
カバンを持つときに必ず握るのがハンドル。手で直接触れるので、擦り切れたり汚れたりしやすい部分ですよね。
そんなカバンの持ち手を補強や新しいものに交換する修理。
交換用のハンドルがAmazonで売られていたので2つご紹介します!
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開け閉めのたびに動かすのがファスナー。
使っているうちに破れたり壊れたり、滑りが悪くなったりすることがあります。そんなファスナーを新しいものに交換する修理。
今回は、修理用のファスナーの引き手をご紹介します!
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この2つは、ややイメージがつきやすい修理かもしれません。
えっ!それも直してもらえるの!?と、少し意外なのが、つぎの3つ。
カバンの内袋(うちぶくろ)とは、いわば裏地。
中に入れている荷物と直に接している部分です。傷んで破れてしまった内袋を新しいものに交換する修理。ここだけを交換できるというのは、少し意外ではありませんか?
根革(ねがわ)という名前、あまり聞き慣れないと思います。
これはカバンの本体とカバンの持ち手をつなげている部分の小さい革のこと。カバンの中でも特に負担のかかるため、ちぎれたり傷んだりしやすい部分です。
根革のちぎれた部分を縫い直したり、交換したりする修理。
カバンのパーツ同士を縫い合わせている糸のほつれ、つまり糸が出てしまった部分。
いつの間にかほつれていて、気になることがありますよね。これを元通りにキレイに縫い直す修理。
カバンの外装だけでなく、内装のほつれも直してもらえます。このように、カバンは部分的に修理してもらうこともできるのです。
カバンのさまざまな修理の中で、今回は「内袋交換」を取材してきました。ボロボロに傷んだカバンの内側の素材を、プロの技でまるごと交換。
クローゼットの奥に眠らせているカバンがある方に、おすすめです!また、カバンの「根革交換」と財布の「ほつれ縫い」も今回、修理例を見せていただきました。
最後に修理前と修理後の写真を見比べて、ご紹介します!
今回、修理をお願いしたのは、内袋交換などや根革修理、ほつれ縫いなど、ミシンを使う作業や手縫いによる作業による修理。
内袋交換をお願いしたカバンはこちら。
使われないまま1年間、ネル袋の中に保管されていたGUCCI(グッチ)のカバン。内袋が、かなり悲惨なことになっていますね。このままでは、とても使うことができません。
中の塗装がはげてしまっているように見えます。ですが実はこれ、塗装のはげではありません。
この内袋の素材は、合成皮革。
ヨーロッパで作られているハイブランドのカバンでも、コストや軽さを追求されたものは、合成皮革が使われていることも多いそう。合成皮革は、布地の上にポリウレタン素材が塗られているもの。本革よりも湿気に弱く、放置しておくと劣化しやすいのです。
このカバンの場合も、長い時間、仕舞われていたことで内袋の素材が劣化して、ボロボロにはがれてしまいました。そのはがれた素材が、そのまま別の場所にくっついて、ベッタベタになってしまったのです。
「このようなカバンの劣化は、湿気が大きな原因です。ハイブランドのものだと、海外でつくられたカバンも多いです。日本は湿度が高い国ですから、カバンが日本の湿度に耐えられずに部屋に仕舞いっぱなしにしているだけで、劣化してしまうことがよくあります。
カバンは仕舞っておくよりはたまに使ってあげる、もしくは風通しのいい部屋においてあげるということが大事です。」
この劣化した内袋を取り出して、新しい生地で作った内袋に交換することが今回の修理。
はじめに、作業のステップをご紹介します。
内袋交換の流れは、こちら。
ここまでで、元の内袋の分解・クリーニングはできました。
ここから、新しい内袋を作る作業に入ります。
これで、新しい内袋が完成しました。
最後に、元のカバンの姿に戻していきます。
これで、内袋交換は完了。
かなりの大改造。
素人には到底できない修理ですね。
それをプロの方は、1日半ほどで仕上げてしまいます。
内袋交換にプロの方が使う道具は、3つ。
カバンの内袋をカバンから取り外したり、内袋を分解したりするために使います。家庭科などで使ったことがある方も多いのではないでしょうか?そう、あれです。
革についた汚れを落とすために使います。アルコールで落とそうとすると、ロゴなどの塗装まで消してしまうのです。
そのため、アルコールよりも弱いクリーナーを使うことがポイント。
新しい内袋を作ったり、カバンに縫い付けたりするために使います。カバンの修理にはもちろん必要ですよね。プロ用のミシンは家庭用のミシンとは違って、厚めの革などもきちんと縫うことができます。
それでは、プロによる内袋交換、ご覧あれ。
まずは、分解する作業です。
リッパーで、カバンの内袋と本体を縫い合わせている糸を切っていきます。
内袋は、上糸と下糸が交差しあって縫い付けられています。上糸の縫い目を1つ1つ、リッパーで切っていきます。
切るのは上糸のみ。下糸はそのまま引き抜いて外すことができます。下糸をするっと引き抜くと、内袋をカバンの本体から取り外せる状態に。
「この工程では、内袋の中のベタついた汚れが他の部分に移らないように、丁寧に糸を外していきます。」
パチッパチッと、テンポよくひとつずつリッパーで上糸を外していく。下糸も、ひっかかることなくシャッという音を立てて、ひと思いに抜き取っていました。
内袋とカバンの本体を縫い合わせている糸を外したら、内袋をカバンの本体からズボッと取り出します。
カバンの本体から取り外された内袋を見て、かなり驚き。
想像していたのは、カバンの本体から内袋の素材を1枚ずつペリペリっとはがしていくもの。実際には、袋そのものの状態でごっそり出てきました。
普段はあまり意識することのないカバンの構造を見て、まるで着ぐるみの中に入っている人を思いっきり見てしまったような気持ちになりました。
取り外した内袋は、ふにゃふにゃと弱々しい姿。この内袋には、さよならして、カバンにまた新たな命が吹き込まれます。
本体から外した内袋は、まだ袋の形をした状態。
ここから厚紙に、この内袋の型をとるために、内袋の糸をまた同じようにほどいて分解します。
手際よくリッパーを使って糸を切っていきます。
ファスナーとブランドのロゴ部分、内袋の上側についている革の部分も外していきます。これらのパーツは、汚れを落として、新しい内袋にも使うのです。
「内袋を交換してまで使いたいということは、それだけ思い入れのあるカバンということだと思います。そのため、わたしたちは、お客様とご相談をしたうえで、使える部分はできる限り使わせていただくようにしています。」
傷をつけてしまわないように、丁寧に糸を外していきます。交換するだけではなく、元からあって使える部分をまた使ってもらえるというのは嬉しいですね。修理をしても、大切な思い出がつながっていきます。
さて、ここからはクリーニング作業。
内袋に使われていたロゴ、そして内袋の上側の革も内袋の劣化物がはりついてベタベタの状態。そのままでは新しい内袋には使えません。
クリーナーと脱脂綿を使って、汚れをキレイにしていきます。
ここで汚れを落とすために使われているクリーナーは、アルコールよりも弱い溶剤。
「アルコールを使ってしまうと、ロゴ自体の塗装まで消してしまう可能性があるため、使いません。」
汚れを、脱脂綿でかなり強めに、ゴシゴシこすっていきます。
すると、みるみる…。
ベタベタでした。ほんとうに。この汚れがみるみるうちに脱脂綿に吸い取られて、金色のロゴがキレイに浮き上がってきました。
もはや解読不能になっていたロゴ。読めないと、意味がありません。
プロによるクリーニングによって見事によみがえりました。
内袋の上側に使われていた革も、ロゴと同じようにクリーニング。
広い範囲の汚れも、クリーナーを染み込ませた脱脂綿がどんどん吸い取っていきます。新しいものに交換する技術のみでなく、元からあったものをよみがえらせて活かす技術がここに。
ここからは、先ほど分解した内袋で型を取って、いよいよ新しい内袋を作っていきます。
新しい生地で同じ形の内袋をつくるために、ここで型紙を作ります。
分解した内袋と同じ型を、厚紙にペンでとっていきます。
今回、内袋に使うのは、シャンタンという生地。つるっとしていて高級感のある生地です。
普通の生糸は、1匹の蚕が作った繭から作られますが、2匹の蚕が1つの繭を作ることがあります。この2匹の蚕が作った繭から製糸した生糸を、玉糸というのです。
玉糸は糸に節が多く、太いところと細いところが不規則になった糸。そのため、シャンタンは不規則にヨコに筋が出ていて、見た目がキレイで上品な生地になるのです。
まずは、このシャンタンに型紙を合わせて、型をとっていきます。
色は、カバンの外側の濃い茶色に合うように、上品なベージュを。
「元々の内袋と同じ素材でお直ししてしまうと、劣化を繰り返してしまいます。
シャンタンは丈夫で見た目もキレイ。縫い合わせたときに、ごわつかずなじみやすい素材です。色も豊富なのがいいところです。」
ペンで引いた線に沿って、シャンタンを裁断します。裁ちばさみがスーッと、つるつるした生地に入ってなめらかに切っていきます。これが、新しい内袋に。
ここからは、ミシンの作業。
裁断した生地の端をミシンで縫い合わせて、きちんと内袋の形にしていきます。
ガシャン、ガシャンガシャンと、輪郭をミシンでなぞるようにして、気が付くと内袋の形に。ミシンを使いこなせる職人さんだからこその妙技。
さきほど汚れを落としたロゴと内袋の上部の革も、新しい内袋に縫いつけて、ポケットも元あったように再現します。
さきほどよりも細かいミシンの作業。ですが、テンポは全く変わりません。ダッダッダとテンポよく縫って、みるみるうちに元々あったようにロゴやファスナーがよみがえりました。
これで新しい内袋は完成。
いよいよ最後の工程です。
新しい生地でつくった内袋を、カバンの本体に縫い付けていきます。
まずは、ミシンで縫い付ける部分を両面テープで仮止めします。
こうすることで、ミシンで縫い付けるときに動いて、ずれてしまうことを防ぎます。
ズレのないように、ペタッと貼り付けます。
両面テープは貼ったまま、このあと縫い付けていきます。
これだけで、かなりカバンの本体にフィットした状態。ようやく、「カバン」が見えてきました。
できあがりが楽しみですね。
カバンの外側からミシンで縫い付けていきます。
「できるかぎり元の状態を再現するために、糸の色も元のものに近い色を選びます。そして、もともと糸が通してあった穴に沿って縫い付けていきます。」
革などの分厚い素材は、家庭用のミシンで縫うのは難しく、プロのミシンの性能とそれを使いこなせるプロの技だからこそできるもの。
ミシンをかけにくそうな曲線になった部分も、とても滑らかに。みるみるうちに「カバン」が出来上がっていきます。
このようにして、全てを縫い合わせたら、内袋交換の作業は完了です。
それではBeforeとAfterを比べて見てみましょう。
ベタベタで、自力では手の施しようのない状態だった内袋。外側はキレイでも、これでは使うことはできませんね。
そして、プロによる内袋交換をした後の姿を見てください!
内袋はもちろんキレイに。ただ、内袋を交換しただけであるにも関わらず、カバン全体の印象がまったくの新品のように感じられます。
もともとついていたファスナーとロゴ、革の部分は、美しく生まれ変わった状態で、元通りの場所に。
使えなかったもの、汚れてしまったものを見違えさせる、プロの魔法です。
カバンの持ち手部分は一番触れる場所ですよね。そのためボロボロになりやすいんです。縁の塗料が剥がれていたり、皮の部分が剥がれていたりと修理がすぐに必要です。
ここでは簡単に持ち手交換の流れを説明していきますね。
まずは、古い持ち手を採寸して、新しい持ち手を作るために型紙を作ります。
指金(L字型の定規)で、まずは持ち手の幅と長さを測って型紙におこします。
バッグとのつなぎ目部分は曲線を型取るため、持ち手を型紙に乗せてなぞっていきます。
型紙に合わせて、シャイニングクロコダイル革を裁断します。
裁断したシャイニングクロコダイル革に、裏張りを貼り付けます。まずは接着剤をまんべんなく塗ります。
接着剤を塗ったあとは、5分ほど乾かし乾いたら、裏張りに貼り付けます。そして、シャイニングクロコダイル革を傷けずないようにローラーを使って圧着します。
裏張りまで貼った状態になったところで、型紙とぴったり同じサイズになるよう裁断します。
バッグとのつなぎ目部分は曲線なので、裁断するのが難しそうですね。裁断し終えたあとの姿がこちら。2本とも同じ形、サイズに切られていますね!
縫い付ける部分を縫いやすくするため、革を削いで薄くしていきます。
枠で囲った部分が回転し、刃(枠の手前部分の白っぽくなっているところ)で革を漉(す)いていきます。
革専用のミシンで、持ち手の芯を包みながら縫っていきます。
ちなみに芯はロープ状のもので、想像していたよりも柔らかい素材。こちらも単純そうに見えて、凹凸のあるシャイニングクロコダイル革をまっすぐ縫うのに技術がいる工程です。
今回は、留め具でバッグに持ち手を取り付けます。
使用する留め具はこちら。シンプルでスタンダードなデザインです。
これで持ち手交換は終了です!持ち手交換についてもっと詳しく解説している記事があるので見てみてください。
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さて、お待たせしました。カバンの「根革修理」の修理例を紹介します。
もしかすると、内袋の劣化よりも身近なトラブルかもしれません。
どんなカバンも、取っ手を持って使うもの。
そのため、根革には負担がかなりかかりますよね。ちぎれてしまったこと、ありませんか?
この部分がちぎれてしまうと、もうカバンとして機能しませんよね。そんなときにおすすめなのが、プロによる根革部分の修理。
ちぎれていた部分がどこなのかが分からないほど、キレイに縫い合わせられています。
「根革は、最も負担のかかる部分ですから、注文も多いです。この部分の修理が可能だということを、もっと多くの方に知っていただきたいですね。」
根革部分は、面積は小さいものの、分厚い革。自分で直そうとしても、針を通すのが難しそうですよね。
修理したことが分からないような自然な仕上がりは、プロだからできること。最後に、今回、カバンの修理をしてくださったプロから、一言です。
二子玉川 美靴工房
保科さん / 小杉さん
「劣化してしまった、ほつれてしまった、破れてしまったなど、自分では使えないと判断することはあると思います。でも、迷った場合は一度ぜひお問い合わせください。修理できるかどうかご相談のうえ、判断していただければと思います。」
ここまでのプロの技はいかがだったでしょうか?
費用のことは後で解説しますが、できることなら自分で修理したい、という方もいるのではないでしょうか。
しかし、自分で直すのはあまりおすすめしません。
カバンのようにパーツの多いものはそれぞれをきちんと修理するのは難しいですし、時間がかかります。さらに大切なカバンだと失敗してしまうかもしれません。
やはりプロにお願いするのが得策でしょう。
カバン修理はプロの技がすごいこと、プロに頼んだほうがいいことがわかりましたね。では実際に頼もうとするといくらかかるのでしょうか?
部分ごとの修理費用は以下の通り。
費用
内装交換
5,000〜10,000円
持ち手
1,000〜2,000円
角すれ修理
3,000〜6,000円
ファスナー修理
3,000〜8,000円
その他
9,000〜11,000円
カバンクリーニングはこちら。
費用
布
1,000〜5,000円
革
5,000〜15,000円
頼む際に参考にしてください!
そして以下の記事は各ブランドごとの修理方法が解説してあります。ご自分の持っているものに合わせて参考にしてみてください。
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いいカバンは、職人さんの力を借りて長く使うことができます。
何度も何度も補修すれば、一生もの、もしくは世代を超えて使うことができるものになります。
もう何年も使っていない、捨てようかどうか迷っている傷んだカバンは、迷わず持っていくことをおすすめします。
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