
ヒール巻き交換でめくれも剥がれも修理!職人技で後ろ姿に圧倒的自信
普段から履いているパンプス。勝負服用の高めのヒール靴。
足を綺麗に見せてくれたり、ちょっと自信を持たせてくれたりする、女性のファッションには欠かせないヒールですが…ふと見たら、ヒール部分の革がめくれていたり、剥がれていたりしませんか?
足にフィットして履きやすかったのに、可愛くてお気に入りだったのに。
こんなボロボロになったの、格好悪くて履けないや……なんて泣く泣く捨てること、ありますよね。
実は、そんなヒールを、新品同様に直す方法があるのです。
それは「ヒール巻き交換」という修理方法。
傷ついたヒール部分の革を、新しい革に取り換えることができるのです。
いやいや。でもそんな修理聞いたことないよ?なんて思ってる方もいるかもしれません。
確かに、ヒールを履いて働く女性20人にアンケートをとってみたところ、
「ヒール巻き交換を知っている」という人は全体の20%しかいませんでした。
その一方で、「ヒール巻き交換をしたことがある」という人は全体の15%。
ここからわかることは、確かにヒール巻き交換とはまだ知名度の低い修理ではあるが、知っている人はすでに修理に出している、ということです。
ということは、ちょっとしたら、もう周りのみんなも修理に出し始めてしまうかも!?
そんな時に、自分だけボロボロのヒールなんて嫌ですよね。
でも本当に綺麗になるのかな?いやそもそもどんな修理なのかな?
なんて疑問だらけであろうみなさんのために、今回は、Doorの戸田さんに、靴修理の職人さんが、実際どのような方法でヒール巻き交換をしているのかを見せてもらいました!
ヒール巻き交換の基礎知識
具体的にどの部分を修理するの?と気になりますよね。
まずはヒールの構造を見てきましょう。
(1)ヒールブロック
靴のかかと部分についている、ヒール本体のこと。
(2)ヒールの巻き革
ヒールブロックを覆っている革のこと。
(3)トップリフト
ヒールブロックを保護するために、先端に取り付けられるパーツのこと。
ヒール巻き交換では、ヒールの巻き革を新しいものに取り替える、という修理がメイン。
パンプス本体は傷ついていないのに、ヒール周りだけボロボロ…という場合、
「ヒール巻き交換をするだけで、まるで新しい靴のようにキレイにみせられます。」
というのが、Doorさんが考える、ヒール巻き交換をすることのメリット。
大切なヒール靴を長く使い続けるためには、欠かせない修理なんですね。
修理に出すタイミングは?
では、どんな状態になった時に、ヒール巻き交換の修理に出すべきなのでしょうか。
それは、「ヒールの巻き革全体に、傷や大きな削れが見られるようになったら」だそう。
しかし、お気に入りの靴であれば、1カ所でも傷がついているときになってしまう!という方も多いですよね。
そんな方に対しては、
「1カ所だけ革がめくれた時など、ヒールの革を全とっかえするほどの状態でない場合、靴の修理屋さんでその部分を接着してもらうだけで十分」というのがDoorさんの考え。
革が削れてしまって、接着できるものがないという場合は、ヒール巻き交換しかないかもしれません。
しかし、単に革がめくれた状態の場合は、「接着」という修理をお願いすればいいのです。
接着だけであれば、比較的お安いお値段で補修してもらえるので、
全体的に、傷や削れ、汚れも目立ってきたな、と思ったらヒール巻き交換。
と、傷の度合いごとに段階を踏んで修理に出すのがポイントです。
職人さんに修理をお願いすべき理由は?
しかし、接着だけ…と聞くと、なんだか自分で簡単に直せちゃうんじゃないか、とも思いますよね。
「100円ショップなどで販売されている、靴修理用の接着剤でめくれた革をくっつける方法があるのは確かです。
ただ、大抵そういった接着剤は硬く固まってしまいがちで、次に修理しようと思った時に、うまく剥がれず面倒なことになってしまいます。」
ヒール巻きを靴修理屋に頼めば、厳選した接着剤を使っているため、そういった心配もないんです♪
「また、靴修理屋が行なっている修理では、ヒールの巻き革ごと取り換えるため、めくれた部分の革がなくても修理できるというのがポイントです。」
自分で補修するのと、職人さんに修理をお願いするのとでは、使う材料から、修理できる範囲、そして仕上がりまで、全く違ってくるんですね。
木目調の素材を使う場合は、4000円~5000円ほどが目安になるそうです。
もちろん、自分で補修するよりは、お値段はかかってしまいます。
しかし、今後も修理していくことや、修理後の見栄えを考えるのであれば、靴の修理はなんでも職人さんにお任せするのが正解のようです。
それでは、実際に職人さんの修理がどんなものなのか、じっくり見ていきましょう!
今回修理に出したスエードのローヒールパンプス
〇│〇│(マルイ)の「ラクチンきれいバンプス」。
お客さんと共同開発した「ラクチンシリーズ」という、人気のシリーズの1つです。
その名の通り、楽だし、黒いからどんな服にも合わせやすいし……と1年半前から週に2、3回のペースで履いていたものだそうです。
近くで見ると、地面に近い部分に、細かい傷がたくさんあるのがわかります。
ヒールの先端についているゴム(トップリフト)はすでに1度取り換えてありますが、ヒール巻き交換は経験なし。
削れた箇所が目立ってしまって、最近は履くのも恥ずかしい…という感じだったので、思い切って修理に出してみたそうです。
修理の流れ
Doorさんが行っているヒール巻きの流れを紹介します。
基本的には3つのステップに分けられます。
1. 古い巻側をパンプスから取り外す
2. 新しい巻き革をパンプスに巻き付ける
3. トップリフトを交換する
ヒール巻き交換自体は、簡単にいうと、古い革を取って、新しい革を巻き付ける、という2ステップ。
それに加えて、実はヒール巻き交換の修理には、トップリフト交換も含まれているのです。
トップリフト交換とは、靴修理でよく依頼されるメニューの1つ。
かかとのゴムなどが擦り切れた時に、新しいものに取り換える修理です。
ただ、トップリフト交換の修理の相場は1000円~3000円で、取り換えるパーツの素材によって変わってきます。
単にトップリフト交換だけをするよりは、ヒール巻きとトップリフト交換の2つの修理が含まれているヒール巻き交換で修理に出した方が、なんだかお得な気がしますよね。
ヒール巻き交換の手順
修理のおおまかな流れをおさえたところで、詳しい手順をみていきましょう。
まだ自分で直してみよう…なんて思っている人も、これを見たらプロに頼みたくなるはず!
1. 古い巻き革をパンプスから取り外す
まずは、ヒールブロックの先端についているゴム(トップリフト)を取り外します。
「トップリフトを取り外すことで、ヒールブロックの高さにズレがないかを確かめることができるんです。」
「ヒールブロックの高さにズレがあったり、ゴムを取り外した部分がボコボコになったりしていた場合は、機械で削って調節していきます。」
今回、ヒールブロックは問題なかったため、そのまま次の作業に移りました。
中敷きを外すと、ヒールがネジと釘で固定されているのがわかります。
5本の釘の真ん中に、ネジが1本刺さっています。
電気ニッパーを使って、釘とネジを取り外します。
「熱を加えて、焦がすことで、深く埋まっている釘も、すんなり取れるようになるんです。」
ネジと釘を1つ1つ丁寧に取りはずしていきます。
そのあとは、接着剤をはがすだけ。
こちらも熱を加えて、接着剤をはがしやすくします。
靴本体とヒールブロックを持ち、手でベリベリ剥がしていきます。
すると、パコっと。
綺麗にヒールブロックだけ取れました!
取り外したヒールブロックについている巻き革をはがしていきます。
巻き革は接着剤でくっついているだけのなので、手でベリベリ剥がしていくと、ヒールブロック本体が現れます。
「ヒールブロックは、基本プラスチック。他には木や、プラスチックと鉄を合わせたものがあります。」
カツカツいうヒールですから、相当硬いものでできているんだろうな……と思っていましたが、実はプラスチックだったということに驚きです。
生ゴムを使って、ヒールブロックの表面に残った汚れや接着剤を、削り落としていきます。
「汚れたままだと、新しく革を巻いた時に、表面がボコボコになってしまいます。」
汚れが完全に落ちると、象牙のように綺麗になりましたね!
粘着性があり、汚れがゴムにくっつき、取りやすいため。
消しゴムと違い、柔らかいため、湾曲している部分にもなじむ。
2. 新しい巻き革をパンプスに巻き付ける
新しい革を用意します。
「今回は靴に合わせて、黒のスエード素材の革を使いました。
スエード以外に、木目調の素材などにも変更可能ですよ。」
ヒールブロックを合わせて、軽く型を取っていきます。
「大体の大きさをトレースして、イメージしてからヒールの巻き替えに取り掛かります。」
筆を使って、革とヒールブロックに接着剤を塗り広げます。
まずは、革の裏面に接着剤を塗っていきます。
「厚くならないように、薄く塗り広げるのがポイントです。」
ヒールブロックのほうにも、まんべんなく塗っていきます。
ちなみに、使うのは職人さんが厳選した接着剤。
靴修理の職人さんにとって、接着剤は「秘伝のタレ」のようなもの。簡単に接着剤といっても、そこらへんで売られているものではないそうです。
塗り終えたら、接着剤が乾くのをしばらく待ちます。
トレースした部分を目安に、革を引っ張りながらヒールブロックに巻き付けていきます。
「巻きつける時に、革とヒールブロックの間に隙間ができてしまうと、仕上がりが汚くなってしまいます。
それを防ぐために、革を軽く引っ張りながら巻きつけているんです。」
カーブしている部分にも革がぴったりつくように、切り込みを入れながら新しい巻き革を貼ります。
チョキチョキと、細かい切れ目を入れていきます。
新しい巻き革を貼ったあと、ポンチという棒で圧着し、表面を綺麗に整えます。
この圧着作業も、革とヒールブロックの隙間をなくすために重要な工程なのです。
切り込みが入っていることで、カーブしている部分も、ぴったり巻き付けられました。
特にカーブがかかっているヒールブロックの根元の部分には、大きめの切れ目が入っていることがわかります。
革の巻きつけが終わったら、接着剤をヒールブロックと靴のかかと部分につけます。
そしてしばらくの間、接着剤を乾かします。
普通は、接着剤つけたらすぐにくっつけなきゃ…!と思いますが、くっつける前に一旦置く、というのは面白いですよね。
接着剤を乾かす目安は、使う接着剤の種類によっても変わってくるそう。
「そろそろ大丈夫かな」と職人さんの肌感で作業を再開する様子は、格好良かったです。
接着剤が乾いたら、ヒールブロックを元の位置に取り付け、しっかりと接着します。
ズレがないように、丁寧に位置を確認しながらつけていきます。
ヒールブロックが靴にしっかり貼りついたら、今度は靴の内側から、ヒールブロックを固定していきます。
固定に使うのはネジ。
ネジを使うことで、釘よりも強く固定することができるそうです。
「元は釘が使われていたものでも、全てネジに変えて固定するようにしています」と、Doorさんはこだわりを見せていました。
外側を綺麗にするだけでなく、靴の改善もしてもらえるなんて、嬉しいですよね。
取り付けたネジは、上からかなづちで叩き、さらに強く固定します。
ネジを固定したあとは、中敷きをはめます。
3. トップリフトを交換する
もともとついていたトップリフトの代わりに、新しいゴムに交換する作業です。
まずは、釘を付けたゴムを用意します。
新しいゴムを、かなづちでヒールブロックの先端に打ち付けます。
取り付けたあとに、ゴムをハサミである程度の大きさに整えます。
機械でゴムを削り、形を整えます。
最後に、ワックスがけをすれば、完成です!
修理後の靴をみた感想
傷のない、綺麗なヒールになりました。
ヒールの巻き革を修理するだけで、本当に新品同様に見えますよね!
革を新しくするため、修理した直後は少し革の色味が違って見えます。
ただ、徐々になじんでくるので、心配は無用です。
「これで、このパンプスを履いて、堂々と歩けます♪」と修理に出したお客さんも大満足の仕上がりです。
今回ヒール巻き交換をしてくれた職人さん
新宿にお店を構えるDoorさん。
店長の戸田さんの趣味を盛り込んだ店内と、アットホームな雰囲気が魅力的なお店です。
もともとサラリーマンとして働いていた戸田さんは、靴修理の会社に転職し、4年ほど前に独立。
「靴修理屋っぽくないお店」をコンセプトに、ご自身の趣味であるアートや音楽を店内に取り込んでいるそうです。
仕事場に自分が好きなものを持ってきて、自分自身が楽しみ、お客さんにも楽しんでもらう。
アート作品や音楽を通じてお客さんと密にコミュニケーションを取りたい。
そんな想いからお店作りをするなんて、素敵ですよね。
「靴も人と同じ生き物です、大切にすれば長くお使いいただけます。
目に見えない部分こそしっかりと魂を込めて直し、手にした時に当店に頼んでよかった!と思っていただけるよう、一つ一つしっかりお直しさせていただきます。」
お客さん、そして修理に出される靴1つ1つを大事にして、リーズナブルな価格で、それでいて完璧に修理してくれるDoorさん。
地域の方々に愛される靴修理屋さんなのも納得です。
まとめ
ヒールの革だけ巻き替えができるなんて、初めて聞いた方も多いかもしれません。
でも、実はお気に入りの靴を長く使うには欠かせない修理方法の1つなのです。
オシャレに、可愛く、格好よく履きたいヒール靴。
傷だらけでは胸を張って歩けませんよね。
靴のためにも、自分のためにも。
履きつぶしてしまったパンプスや、どこかに引っかけて削れてしまったヒール、ぜひ一度ヒールの巻き交換に出してあげてください。
今回、ヒール巻き交換を担当してくださったのは、Doorの戸田さんでした。
ありがとうございました!
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