レザージャケットやレザーコート。
長年愛されるアメカジスタイルの定番で、熱心なファンがたくさんいますよね。
高いお金を払ってでも、憧れの本革の革ジャンを手に入れるために熱心に働いた、そんな青春がきらめく時代もありました。
その革ジャン、今どうしていますか?
クローゼットにしまいっぱなしの人、古くなっても着続けている人、そしてこれから新しく買おうとしている人。
みなさんにオススメしたいのが、染め直しと修理です。
大切なレザージャケットやコートを、キレイに直していつまでも着続けてみませんか?
ということで今回、「ユアマイスタイル」編集部が取材に向かった先が、神奈川県横浜市にある革修理店「YSR」。
店主である南條弘行さんに、レザーコートの染め直しの工程を見せてもらいました。
南條さんのプロフィールと「YSR」の詳細は、「レザーソファーのクリーニングならお任せ!革のプロによる修理を特集」で紹介しているので、見てみてくださいね。
今回、南條さんが染め直しの依頼を受けているのが、この黒色のラムレザーのロングコート。
ラムレザーは、牛革などの他の革に比べて軽く、扱いやすいので、現在のレザージャケットやコートのほとんどがラムレザーで作られています。
しかし、軽くやわらかい素材のため、破れやすく傷みやすいという性質も。
少し引っかけただけでポケットが裂けてしまった、という人も多いようです。
「YSR」では破れた革の修理も受け付けていますが、今回はこのコートで、色落ち・色剥げを染め直す作業を見せてもらいましょう!
また、ラムレザーのジャケットの日頃のお手入れ方法が知りたいという人は、この記事を参考にしてみてくださいね。
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レザーコートやレザージャケットを染め直す補修には、大きく分けて3つの工程があります。
それがこちら。
1.作業の準備をする
2.染め直す
3.コーティングする
この工程、一見すると簡単そうに見えませんか?
いえいえ、それは大きな間違い。
実は工程のひとつひとつに、職人さんならではの技術と深いこだわりが隠されているんです。
どういうことでしょうか?詳しく見ていきましょう!
革の染め直しをする前に、なくてはならない準備があります。
それがこの2つ。
・マスキング
・色の調合
特に色の調合は、コートやジャケットの染め直しの完成形に大きくかかわる大事な作業です。
コートの革以外の部分(ボタンと裏地)をマスキングしていきます。
ボタンは、表面はもちろん、裏面にもしっかりマスキングテープを貼ります。
コートの裏側は、表から折り返された表面の革と裏地とが隣り合っているので、裏地の部分だけをていねいにマスキングしていきます。
裏地は面が広いので、新聞紙をテープで留めて覆います。
革を染め直すのに使う色を調合します。
この作業に使うのがこちら。
[1]塗料
[2]ツヤ出し・ツヤ消し
[3]調合した色
5色の塗料とツヤ出し・ツヤ消し剤を調合して、コートの色を美しく再現できる色を作ります。
革と革の色、そしてその状態により、コートの上に実際に塗った時のツヤや発色の具合まで考慮しながら色を作っていく…。
その技術はまさに職人技です。
何度も混ぜてはその配分を記録し、計算しながら調合していくことで、後から何度でも同じ色を再現して足せるようにするのだとか。
また、作った色が別のコートやジャケットの色を調合する時の資料にもなるといいます。
準備ができたら、いよいよ染め直しです。
でも、いきなり全体に色を付けていくことはありません。
まずは革の荒れてしまったところから、細かく色を染めていきます。
全体の染め直しの前に、色が剥げている部分に細かく色を入れていきます。
革が荒れ、色剥げがしやすい部分はこのあたり。
こういったところはもちろん、コート全体をよく見て、他にも革が荒れている部分がないか確認します。
そして、荒れた部分を一か所ずつ、ていねいに色を染め直していきます。
部分的な染め直しの流れはこんな感じ。
1.ヤスリで荒れた部分をなめらかにする
2.筆で細かく色を入れる
3.ドライヤーで乾かす
まずは、革が荒れてざらついている部分を、軽くヤスリをかけてなめらかにしていきます。
ヤスリをかけることで表面の凹凸がなくなり、キレイに染め直すことができます。
色が落ちて剥げているところに、筆で色を塗ります。
ドライヤーで乾かします。
ドライヤーで温風を当てるとふたたび革が荒れてしまうので、革がキレイにならされるまで同じ工程を繰り返します。
荒れがひどく毛羽立ってしまっているところは、革用のボンドをキリとピンセットで調節しながらつけて、補修します。
またその上から色を入れ、ドライヤーで乾かし、を繰り返し…。
気の遠くなりそうな作業ですが、黙々と進めていきます。
素人目には全く分からない革の荒れも瞬時に見抜き、直していく様子は、まさにプロ。
全体を確認して、革が荒れたり色が剥げた部分がなくなったら、次に全体の染め直しです!
コートに合わせて作った色を、「スプレーガン」に入れます。
スプレーガンは、タンク部分に入れた塗料を広い範囲に吹き付けることができる道具。
塗料の量と空気の量を2つのネジで調節することで、塗料の濃さを思い通りに調整できます。
塗料をコートの全面に、まんべんなく吹いていきます。
ムラや塗り残しがないかを念入りに確認して、染め直しは終わりです。
仕上げにウレタンコーティング剤を使って革をコーティングしていきます。
この作業によって、革の表面にツヤが生まれ、革の耐久性も上がるので、キレイな仕上がりのためにも大事な作業です。
コートの質感に合わせたツヤ感を出すために、数種類のコーティング剤を配合したものを使っていきます。
コーティング剤を、染め直しに使ったものとは別のスプレーガンに入れます。
コートにまんべんなくコーティング剤を吹き付けていきます。
ふたたびムラや塗り残しがないか全体をチェックします。
革が均一にコーティングされ、十分に乾いたら、今回のレザーコートの染め直しの全工程が終了です!
染め直しが終わったコートを、補修前と比べてみましょう。
左半身が染め直し前、右半身が染め直しの後です。
黒色で少し分かりづらいので、近寄って見てみましょう!
そでの部分。
色が剥げた部分がキレイに直され、光沢が出ていますね。
ポケット。
すその部分。
荒れた部分だけでなく、全体的にハリとツヤが戻ってキレイになっていますね!
先ほど、現在販売されているレザージャケットやコートのほとんどが、ラム革だとお話ししました。
ですが、馬革や牛革のレザーコートも、根強いファンを持っています。
ラム革だけでなく、馬革や牛革のコートももちろん、プロによるメンテナンスが可能!
ラムレザーにはない特徴がありますので、それぞれの良さに触れてみましょう。
これからレザーコートやレザージャケットを購入する方は、素材選びの参考にしてみてくださいね。
馬革のコートは、柔軟性に優れているのが特徴です。
薄くて軽く、やわらかい素材なので、着心地の良さに定評があります。
ハリのある素材で、長く着用しても型崩れしにくいので、お手入れが楽です。
馬革素材は、2種類あります。
147cm以下の小型馬の革です。
手触りが良く、やわらかい質感。
生まれる前の仔馬の革をハラコと呼ぶのですが、ハラコは流通量が少ないため、ポニースキンが代用されます。
大人の馬の革です。
大きく柔らかさに富んでいるため、コートやジャケットに向いている素材です。
活発に動く馬の革は傷が多いこともあり、ダメージが少なければ少ないほど高値となります。
馬革のコートは、独特な経年劣化も楽しめます。
やわらかさや希少さにこだわりたいなら、選んでみましょう。
牛革のコートは、革が厚く耐久性が高いという特徴があります。
丈夫さに定評があり、一生もののコートとして愛用するファンが多い素材です。
特に男性からの指示が厚く、男らしい質感や味のあるツヤ感、が、着る人の魅力を引き立てます。
着れば着るほど革が伸び、身体にフィットするのも牛革の魅力です。
一言で牛革とまとめてしまいがちですが、牛革にはいくつかの種類があります。
生後6ヶ月までの子牛の革です。
薄く加工しやすいのが特徴で、牛革の中でもっとも上質ですが、コートにはあまり使用されません。
生後6ヶ月~1年の牛の革です。
カーフスキンよりも丈夫さがあるため、カーフスキンと同じく質の高い革として知られます。
生後2年以上の出産を経験している牝牛の革です。
出産を経験しているため、腹部の皮がややゆるいですが、柔らかい素材のため、コートをはじめ幅広く利用されています。
生後2年以上の、去勢している牡牛の革です。
丈夫で、革の面積が大きいため、コートやジャケットによく使われています。
生後3年以上の去勢していない牡牛の革です。
丈夫く分厚い素材で、去勢していない分、傷が多いという特徴があります。
工業用や靴底によく使用されます。
牛革コートを購入するなら、このような素材の違いにも目を向けて、選んでみましょう。
最近は、レザーのジャケットやコートを、合皮や化学繊維でできたものを買う人が多く、本革にこだわる人は少ないといいます。
でも、本革は本革でしか味わえない楽しみを持っています。
それは、手間暇かけてする日頃の手入れだったり、色あせすらも楽しめる経年変化だったり。
たとえ色が剥げても、革が破れても、キレイに直せばまた使い続けることができます。そして、それができる職人さんもいます。
ぜひ一度、自宅のレザージャケット・レザーコートを補修に出してみませんか?
今回取材した「YSR」はレザージャケット・コートだけでなく、革製家具や革のカーシートなど、革製品全般の修理を受け付けています。
プロの技をもっと詳しく!
また、「ユアマイスター」では革製品の修理の職人さんがたくさん出店しています。
自分に合った職人さんを見つけてみてくださいね。